アイデンティティ政治に反対する人々は、大統領による多様性、公平性、包括性(EDI)への取り締まりを歓迎するだろう。しかし、研究資金や留学生に対する彼の攻撃、さらには社会を大きく分断する彼の広範な政策が、彼らに何らかの懸念を抱かせてはいないのだろうか?
マシュー・ライズはその答えを探るため、バッキンガム大学を訪れた。
元記事:Are anti-‘woke’ academics enjoying Donald Trump’s presidency? (要約)

ジョンズ・ホプキンス大学のモウンク准教授は、スティーブン・ピンカーと一緒に「古典的自由主義」のテーマで会議に登壇し、トランプ政権のやり方にはかなり不安を感じていると語った。
彼いわく、トランプ政権には、アメリカの大学で当たり前になりつつあるイデオロギーの押しつけを正すチャンスがあったのに、それを生かすどころか「大学を敵みたいに扱って、力でねじ伏せようとしている」と批判しています。具体的には、ハーバード大学への攻撃や、連邦の研究費の無差別な削減、政権に気に入られない意見を言った留学生の追い出しなどがその例です。
モウンク氏は、右派ポピュリズムの危険性についての本を2冊書いていて、最近はアイデンティティ政治に対する批判もしています。彼は「学者は、自分が正しいと思うことを、誰がどう思うか気にせずに発信すべきだ」と強調していました。彼やピンカーは、「アイデンティティ統合(identity synthesis)」という考え方が、根本的な道徳原則に反しているとして反対しています。
ただ一方で、明確な政治的な立場を持たず、「ウォーク的な考えが嫌い」という理由だけで、トランプを批判しなくなったり、逆に支持してしまっている人たちに対しては、がっかりしているようです。
バッキンガム大学での会議では、トランプを全面的に支持するような発言は(ルフォー氏を除いて)あまり聞かれませんでしたが、大学文化への影響については、いくつか肯定的な声もありました。
たとえばサヴォライネン氏は、「民主主義と世界平和が大事だからトランプには投票しなかった」と言いつつ、「大学改革はこれまで全然進んでなかったけど、トランプのおかげでようやく揺さぶりがかかった」と話していました。
「ハーバードへのやり方はやりすぎだとは思うけど、DEI(多様性・公平性・包括性)を後退させるには貢献してる」と評価し、「高等教育の分野では、トランプはむしろ“善”の存在だと思ってる」と言います。また、大学の理事会や州議会が、もっと“異端な”学者たちと協力して、偏った思想への対応を進めていくべきだとも主張していました。
一方で、ムサ・アル=ガルビ氏(ストーニーブルック大学)は、「ウォーク的な思想が表現の自由を脅かしている」という話は大げさすぎると考えています。彼は昨年出した本『We Have Never Been Woke』の中で、「こういう“ウォーク”のムーブメントは歴史上何度もあったけど、結局どれも長くは続かない。今回のももう下火になってきている」と書いています。
彼はTimes Higher Educationの取材に対して、「ウォーク主義が文明を脅かしているとか、西洋が崩壊寸前とか、そういう話はちょっと大げさすぎる。本当はそこまで深刻じゃない」と話していました。
DEI政策についても、「実は目指してる平等や寛容さにあまり効果がなかったどころか、逆効果だったかもしれない」としつつ、「でもそれで大学を根本から壊して作り直す必要があるかっていうと、そこまでの危機じゃない」と語ります。「問題があるのは確かだけど、まずは抗生物質で治療するべきで、いきなり腕を切り落とすようなことはすべきじゃない。手術が必要になっても、まずはメスでやって、チェーンソーを持ち出すのは最後の手段だ」と、比喩を使って説明していました。
今の政治的な空気は、「ウォーク主義はやりすぎだ」と公に言う学者たちにとっては発言のチャンスになっています。しかし、学内の思想のバランスをどうやって取り戻すかについては、リバタリアン、保守、リベラル、左派の間で意見が大きく分かれています。トランプが、ルフォーのような“血を流してでも変えろ”という強硬なやり方を採る中で、DEIへの攻撃には賛成だけど他の政策には反対…という学者たちの立場は、これからもっと居心地が悪くなりそうです。
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アメリカの政治的な問題は根が深いし、今回は、国が分裂されつつある現状。
そういった話を日本にいながら、どう理解できるかを考え、やはり現地のニュースをそのまま知ることが一番と思って届けています。
今日は言葉の意味も少し深堀ってみます!
woke(ウォーク)派
「woke(ウォーク)派」という言葉は、もともとアメリカの黒人英語(African American Vernacular English)で「目覚めている(= woke)」という意味から始まり、社会的正義や人種差別、性差別、LGBTQ+の権利などに敏感であることを指す言葉でした。
本来の意味(肯定的な意味)
• 差別や不平等に対して意識的・批判的であること
• 社会的に弱い立場の人々を支援しようとする態度や思想
例:「彼はwokeな考え方の持ち主で、ジェンダー平等についてもよく勉強している」
しかし最近では、以下のような文脈で使われることが増えています:
現在の使われ方(皮肉・批判的な意味)
• 過剰な政治的正しさ(ポリコレ)
• イデオロギー的に偏った左派的主張を揶揄する意味で使われることが多い
• 「キャンセルカルチャー」や「言葉狩り」と結びつけて批判されることも
例:「最近の大学はwokeすぎて、自由に意見が言えなくなっている」
「イデオロギー(ideology)」
「イデオロギー(ideology)」とは、ある人や集団が持っている、政治・経済・社会などに対する一貫した考え方や価値観のこと。
もっとわかりやすく言えば、 「世の中はこうあるべきだ」 「正しい社会とはこういうものだ」 「人間はこうあるべきだ」…といった信念のセットや世界観のこと。
イデオロギーをざっくり説明
保守主義(Conservatism)
伝統や秩序を重んじ、急激な変化に慎重な立場。家族や宗教の価値を大切にすることが多い。
リベラリズム(Liberalism)
自由・個人の権利・平等を重視。政府の介入を最小限にすべきという立場が多い。
社会主義(Socialism)
経済格差をなくし、みんなで富を分け合おうとする考え方。
共産主義(Communism)
財産の私有を否定し、全てを平等に共有しようとする極端な社会主義
フェミニズム(Feminism)
男女平等や女性の権利拡大を重視する思想。
国家主義(Nationalism)
自国の利益や文化を最優先に考える立場。
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